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2013年1月29日(火)

1.路上商い

 最近読んだ中で印象に残った本。
 今更なので少々恥ずかしいが池波正太郎「鬼平」2冊。藤沢周平「麦屋町昼下がり」「用心棒日月抄」「隠し剣秋月抄」。時代小説はあまり読んで来なかったが、なるほど鬼平はテレビ時代劇に相当影響を与えたんではないかという作り。まあ鬼平自体がテレビ化されていたけれど・・・その作品としての価値は専門家に語っていただくとして、僕が一番感心したのは登場する人物や場面を設定する中で語られる「商売」の多彩さである。実に色々な職業が出てくる。盗賊を捕える役人の話であるためか零細小売業者よりも商う額の大きい問屋の登場が目立つ(例えば醤油酢問屋、小間物問屋、茶問屋、呉服問屋、線香問屋、蝋燭問屋、薬種問屋、紙問屋、扇問屋、海苔・生布問屋、藍玉問屋)が、一方で外食産業を含むリテール店舗もまた多い。茶店、居酒屋、軍鶏鍋屋、茶漬屋、蕎麦屋、菓子屋、鰻屋、旅籠、船宿、花屋、唐物屋、荒物屋、小間物屋、植木屋、書籍商、仏具商、煙草屋、枝豆売り、金魚売り、古着売り、針売り、緡売り。・・・。

・・・緡って?

 この見たことも無い「緡」という文字(「さし」と読むそうな)とそれに続く説明に僕は驚いてしまった。こんな商売あるの? 文庫1巻の「浅草・御厩河岸」から引用する。

「当時の銭は〔穴あき銭〕であるから、これを藁でよった緡へ差して束ねておく。この緡の内職は火消役屋敷の小者の内職なのだが、岩五郎はこれを仕入れて売り歩く」

 緡の実物は見たこともないし、どれほどの値打ちなのか知らないが。
 こんなもんそうそう売れるんかい?まあえらく細かい商売なんでないかい?
 針だけ売って商売成り立つの?緡売りってどうよ?

 そこでふと思った。
 この考えられんような細かい分業(というのか)はインドの野菜売りと同じじゃないのか。

 今日もまた通勤の道すがら目にする数多のインド人達。ムンバイの都市の路上には物売りが溢れている。路上で一番よく見かけるのは、第一に何の目的が分からんが立ったり座ったり歩いたり寝たりしている大勢だが、それを除いて商売人に限れば野菜や果物売りが目立つ(地域にもよるが)。毎日車で通る道の脇、いつも同じ場所に必ず大根(なんとかラディッシュ)とコリアンダーと思われる葉っぱを売っている婆さんがいる。それがいつも大根なんである。たまには人参を売ればどうかジャガイモを仕入れてはどうかと思うのだがいつも同じ品揃えである。これは何なんだろう。路上つまり屋台ですらなく道端に野菜カゴを置いているだけの状態だからそれほど多品種を扱う訳にも行かないのかもしれないが何とも不思議だ。他にもいる。玉ねぎだけ売るおっさん、ジャガイモのおっさん、バナナのおっさん、ココナツのおっさん、とうもろこしのおっさん、今頃は葡萄の季節らしく葡萄のおっさん(基本的におっさんだらけである)。細分化されているというか、共同でいろんなものを扱う店を1軒出せばもっと客を呼べるんじゃないの?などと要らんことを思ってしまう。あるいは個人でもあと1品2品、仕入れられへんのやろか。野菜以外なら、何かよう分からんジュース屋、謎の炒め物(?)屋、揚げ物屋、チャイ屋。食品以外なら新聞売り、シャツを売るおっさん、ズボンのおっさん、ベルトのおっさん、何に使うか分からん電気ケーブルのおっさん、チャチな装身具のおっさん、タッパーのおっさん(何やそれ)、靴・サンダル修理のおっさん、塀に小さな鏡を引っかけてその前に椅子を置いているだけの散髪屋。・・・いくらでも売りたい儲けたい、というのではなくて家族(まあ大家族だろう)の中で婆さんが1日に何ルピー稼ぎ、父ちゃんがいくら稼ぎしていれば何とか食って行けるという現状もあるのかもしれないし、またそうした路上の物売りの中にも我々には良く分からないルールがあって、人々はその中で粛々と日銭を稼いでいるだけのことなのかもしれない。しかし僕にはその雑多な商売が路上に展開している現状に読んで知っただけの「緡売り」がだぶって見える。流通の未発達、ある品目における小売チャネルビッグ10の売り上げトータルが全インドの2割にも満たない「バラバラさ」加減が思い起こされて来る。江戸期の日本とそれが同じなのかどうかデータを出せと言われても困るのだけれど。僕の思い込みに過ぎないのだろうが、それでも敢えて思い込みを文字にするなら、個々人がそれぞれに小さな小さな商売を営みその日を暮らして行くインドの様子はもしかすると江戸時代の日本(の江戸?)に近いんではないのか。時代小説を読んでインドを思うとは考えもしなかったが、とにかくそういう目で見るとそう見えてしまうんである。


 インドは江戸時代だった!

 ・・・などと人に言ってみてもまず伝わらないな。
 ブログ向けの独り言ということでご勘弁いただく。




 つづく。




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by t-nakanobu2 | 2013-01-30 02:48 | 日記
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